2026年9月26日(土)に中野で開催された Platform Engineering Kaigi 2026 に参加してきました。全体の感想と、聴講したセッションのまとめです。
概要
- 今年も参加しました。昨年と同じく Early Bird チケット(2,000円)を購入。
- 今年は「Platform City」という企画があり、自己紹介のホームページ作成から CI/CD までをやってくれるプラットフォームが用意されていました。AI で開発のハードルがだいぶ下がったこともあり、面白い試みだったと思います。
- https://citymap.core.paas.jp/?_gl=1*1vgtjjf*_ga*MTE2MDY0NTUzNC4xNzkwMjMwNjcw*_ga_HNMDVRJB0L*czE3OTA4MTc1MDUkbzExJGcwJHQxNzkwODE3NTA1JGo2MCRsMCRoMA..
- 会場は中野。久しぶりだったので、駅の出口を間違えました。
全体の感想
- Wi-Fi:会場の Wi-Fi はありましたが、Room を移動すると切れてしまいます。モバイル Wi-Fi を持っていって正解でした。
- 記録方法:発表は PC でリアルタイムに録音し、Claude で要約しました。今回は土曜日で仕事をする必要もなかったので、次回からは PC を持っていかなくてもよさそうです。
- 楽しみ1. 屋台:たこ焼きとクレープでした。以前はお酒もありましたが、今回は Red Bull に。Red Bull の大型コンテナ(?)は初めて見ました。
- 楽しみ2. マッサージ:「エンジニアは手をよく使うから」ということで、今回は手(手首?)をほぐしてもらいました。今までにない刺激でした。
聴講セッション
1. 基調講演:Architecting Agentic Development Platforms
登壇:Kaspar von Grünberg 氏(『Thinking in Platforms』著者)|セッションページ
要点:モデルの競争ではなく、プラットフォームの競争
- モデルはコモディティ化した。AI 導入後の生産性の差を生むのは、モデルを生産的に動かすプラットフォーム。今後はエージェントも「新しいユーザー」として迎える必要がある。
- エージェント主導開発には 0〜4 の段階がある。レベル3(人間がオーケストレーター)が最大の転換点。レベル2以下が 72% を占め、「Copilot を入れたから十分」は危険。
- エージェントは制御ループとして設計する(豊田佐吉の自働化が原点)。ハルシネーションは「最初のイテレーション」と捉え、決定論ゲート(CI など)と確率論ゲート(評価)を通ったものだけを人に渡す。
- Agentic Development Platform は Tooling(既存の IDP)/Paths(ゴールデンパス)/Agent infrastructure(推論基盤・ハーネス・ガバナンス)の 3 レイヤー。
- 始め方は
/pr-review(読み取り専用でリスクがほぼない)→/validate-change(ハイブリッド)の順に、2〜3人の小チームで磨く。 - 質疑応答では「全社展開を急ぐと失敗する(あえて減速する)」「モデルアグノスティックに設計すべき」という話が印象的でした。
2. プラットフォームの複雑性はどこに住むべきか
12:15-12:45 Room A|登壇:小野 大器 氏(enechain)|セッションページ
要点:認知負荷は消えず、プラットフォームへ移る。それでも引き受ける価値がある
- PR ごとに環境を複製するプレビュー基盤「prothea」(GKE 上の Kubernetes Controller)の設計事例。
- マニフェスト生成方式ではなく、クラスター内で複製する Controller 方式を採用。ベースマニフェストは変更しない。
- 設定は段階的なインターフェースにする。普段は紐付け情報だけを書き、導出結果は困ったときに見る窓口にする。
- Preview ID と Istio(GAMMA)を使ったヘッダーベースのルーティングで、プロダクトをまたいだプレビューも可能。
- 学び:必要な複雑さを引き受けられる技術を選ぶ/境界は引き直してよい/既存の概念を混ぜない/インターフェースに力を入れる。
3. AI Slopを生まないPlatform Service設計:価値仮説と効果測定ってどうやるの?
13:00-13:30 Hall|登壇:木嶋 幸子 氏(レッドハット)|セッションページ
要点:AI Slop は「低品質」ではなく、受け手の期待値とのずれ
- 受け手の 42% は、AI Slop を渡してきた相手を信用しなくなる。Platform に置き換えるとアダプションが下がる。
- AI を使っても渡す側の責任は変わらない。リレーのバトンパス(ハンドオフ)が大事。
- 4象限(目的への貢献度 × 受け手の負荷)で緑ゾーンを目指す。まず貢献度を上げ、次に負荷を下げる。
成果物の4象限マトリクス
| 目的への貢献度 \ 受け手の負荷 | 負荷:低 | 負荷:高 |
|---|---|---|
| 貢献度:高 | 緑ゾーン(目標) 目的に効き、受け手も楽 |
グレー 良いものでも期待値がずれると AI Slop 扱いされる |
| 貢献度:低 | グレー 楽だが目的に効かない |
グレー 効かないうえに負荷も高い |
- いきなり緑に入ることはほぼない。まず貢献度を確保して(上へ)、それから負荷を下げる(左へ)。
- 貢献度が低い状態から上げるのは難しい。戦略の誤りは取り返しがつきにくいので、リリース前に検証する。
- グレーに入っても即中止にはせず、まず原因を分析する。
- 価値仮説(因果チェーン)を立て、VSM でハンドオフを観測する。正常系(効果)と異常系(副作用)をビジネスのテストケースとして測る。
- 検討記録が GitHub で公開されています。
- 「成果物の4象限マトリクス」がとても良かった。もやもやしていたことが可視化・具体化できました。
- Value Stream Management も良かった。今後の問題解決にぜひ適用したいです。
4. そのTerraform、マージした後も本当に安全か分かっていますか
13:45-14:15 Room A|登壇:ハオ 氏(テナブルネットワークセキュリティジャパン)|セッションページ
要点:静的スキャンの緑チェック ≠ 安全
- 「その権限が実際に使われているか」はコードの中にない情報なので、静的スキャンでは判断できない。
- 検証例:どこにもアタッチしない IAM ロールは PR 時の IaC スキャンを通過し、apply 後の継続スキャンで「Inactive IAM Role」として検出された。
- 静的スキャン(車検)と継続スキャン(ドライブレコーダー)の両方が必要。
- 見つけたリスクはコンソールで直さず、コードに戻して直す(Cloud to Code)ことでドリフトを防ぐ。
- AWS 標準機能なら、IAM Access Analyzer(未使用アクセス)や
RoleLastUsedで検出し、Claude でコード修正の PR を作る形でも実現できそうです。
- どちらかと言えば製品の宣伝がメインでした。
- 少なくとも今の仕事では代わりの手段(IAM Access Analyzer+Claude)があります。
- セッションのタイトルに釣られた感じがしました。
5. Agentic Platform Engineering on AWS
15:15-15:45 Hall|登壇:松岡 雄地 氏、小西 杏典 氏(AWS ジャパン)|セッションページ
要点:AI エージェントに専門知識を持たせて、ゴールデンパスをスケールさせる
- 課題:ゴールデンパスを作っても使い方が伝わらず、プラットフォームチームに問い合わせが集中する。
- AWS が OSS の APEX(Agentic Platform Engineering eXperience)を公開。ECS/EKS 構築のノウハウを Skills・Steering・Rules として持ち、既存のコーディングエージェントに追加して使える。
- デモ:ECS Architect → ECS Build で要件から ECS Managed Instances を推奨し、検証が通る Terraform を生成。ECS Operation Review では既存環境を 8 つの観点で診断(サーキットブレーカーの無効などを検出)。
- ガードレールは、人とエージェントの両方に SCP / Permission Boundary / Config / CloudTrail で同じように適用する。
- リポジトリ:aws-samples/sample-apex-skills
仕事でぜひ活用してみたいです。次のコマンドで導入できるらしいです。
npx apex-skills
6. セルフサービスのオブザーバビリティ基盤をOpenTelemetryで作る
16:45-17:15 Hall|登壇:山口 能迪 氏(Grafana Labs)|セッションページ
要点:「人の判断から仕組みへ」
- 計装漏れ(Propagator の設定漏れでトレースが切れる)や属性値のばらつき(production / prod / PRD)は、チームの怠慢ではなく仕組みの問題。
- プラットフォームチームは 3 本柱でセルフサービスを作る。
- SDK ディストリビューション:デフォルト値を持たせて配布する
- Collector 層:Agent と Gateway の 2 層。PII・サンプリングの方針、OpAMP によるフリート管理
- セマンティック規約のレジストリ:OpenTelemetry Weaver で許可する値を定義する
- どの柱も「配布して終わりにせず、CI で検査する」。
- 生成 AI による障害調査でも、属性がそろっていることが調査時間とトークンの削減につながる。
- 解説資料:OpenTelemetryで作るセルフサービステレメトリー基盤(Zenn Book・無料)
- 冒頭の「メトリクスなどの量が多すぎてコストを圧迫する」という話にとても共感しました。
- 今の仕事ですぐに使う機会はないかもしれませんが、勉強として OpenTelemetry を実際に使ってみたいです。
- 登壇者が翻訳した『入門 OpenTelemetry』も調べてみましたが、翻訳の評判はあまり良くないようです。ほかに参考になる本も探してみようと思います。
7. インフラとアプリの境界線と委譲の設計
登壇:鈴木 勝史 氏(スリーシェイク)|セッションページ
要点:境界は「機能」と「役割」の2つ。両者は連動するので継続的に引き直す
- 機能の境界(プロビジョニング / デプロイ):値が変わるタイミングで管理する側を決め、値の受け渡し方(インターフェース)まで設計する。
- 事故例:Terraform で apply したら Cloud Run のイメージが初期値に戻り、アプリが停止した。直接の原因は
ignore_changesの漏れ、本当の原因は「イメージを誰が管理するか」を決めていなかったこと。 - 受け渡し方式:手で転記 → 名前で引く → tfstate を参照(ecspresso / tfstate-lookup)→ ストアに書き出し。
- 事故例:Terraform で apply したら Cloud Run のイメージが初期値に戻り、アプリが停止した。直接の原因は
- 役割の境界(プラットフォームチーム / 開発チーム):委譲には 5 段階あり、唯一の正解はない。ゴールデンパスは強制せず、標準から外れる逃げ道を用意する。
- 委譲で渡すものは「書く権限」「適用する権限」「結果への責任」。AI で書くのは楽になったが、結果への責任は人が持つ。
- 前から気になっていた論点でした。
- 話はどちらかというと、アプリ開発者へ渡していく方向の内容でした。
- 一方、今の仕事ではインフラ側でアプリケーションのコードも書いています。
まとめ
- 今年は「AI エージェントをプラットフォームのユーザーとしてどう迎えるか」というテーマが全体を通して目立ちました。
- 共通していたキーワード:ゴールデンパス、認知負荷、ガードレール(決定論的な検査)、境界とインターフェースの設計。
- すぐに試したいのは、APEX Skills の導入と、IAM Access Analyzer による未使用 IAM ロールの棚卸しです。
- 買いたい本:実践 プラットフォームエンジニアリング 開発者体験を加速するセルフサービス基盤の設計と構築
※ 各セッションの内容は、当日の録音を文字起こし・要約したものです。聞き取りの誤りや解釈を含む場合があります。



