背景
あるとき、上層部の会議で新しいプロジェクトの担当割りについて「大丈夫か?」という懸念が出た。 特定のメンバーが新しいプロジェクトを主導することになったタイミングで、である。
現場ではすでに、社内ルールの整備・1on1・報告書の提出依頼といった対応が進められていた。 しかし、それらを重ねても上層部の不安はなかなか払拭されなかった。
この経験を通じて考えたこと、実際に取った対応を、一般化した形で残しておく。
気づいたこと:「人を信じてもらう」では不安は消えない
1on1・報告書・ルール整備は、いずれも「本人の行動を改善する/可視化する」ためのアプローチだった。 しかし振り返ると、上層部が求めていたのはそれとは少し違う種類の安心感だったのではないかと思う。
- 1on1は主観的なやり取りで、外部には見えない
- 本人が書く報告書は、恣意性が入りやすく信頼の証明にはなりにくい
- ルール整備は属人化リスクを下げる仕組みだが、「この人で大丈夫か」への直接的な回答にはならない
つまり、「本人を信じてほしい」という路線だけでは、組織が求める「仕組みとして担保されている」という安心材料にならないということだった。
そこで、アプローチの重心を「人への信頼」から「仕組みへの信頼」に移すことを考えた。
具体的に取ったアプローチ
1. 懸念の正体を具体化する
「大丈夫か?」という発言は抽象的だった。技術力なのか、コミュニケーションなのか、過去の経緯なのか。 まずは懸念の中身を関係者間で言語化することから始めた。曖昧なままだと、何をやっても「まだ不安」と言われ続けてしまう。
2. 「合意形成」を先に固める
技術的な対応内容そのものよりも、「その対応レベルで良い」ということについて、関係する事業側の担当者が納得・合意しているかどうかの方が本質的だと考えた。
対応が完了していても、その基準について事業側の合意が取れていない状態で報告だけが出ると、一方的な連絡で終わってしまい、報告後も同じ構造の懸念が再燃しかねない。 そのため、正式な報告の前に、関係者との間で「このリスク許容レベルで進める」という合意を明示的に取ることを優先した。
口頭だけでなく、誰が・何に合意したかが後から分かる形で残すようにした。
3. コミュニケーションの実態を、本人を介さずに確認する
本人が頑張っていても、周囲とのコミュニケーションの取り方によって、些細な話でも上位者へのエスカレーションが起きやすい状態になっている可能性を考えた。
これは本人の能力の問題ではなく、関係者との情報のやり取りの構造の問題として捉えた。 そこで、調整が可能な立場の人に、関係者側が実際どう感じているかをヒアリングしてもらう、という動きを提案した。 自分から直接動くと、本人の頭越しに評判を探るような形になりかねないため、権限のある人に依頼する形を取った。
4. 人選・役割の見直しは、別の文脈で、タイミングを分けて考える
対応を進める中で、そもそも本人の得意な仕事のスタイルと、今回のタスクの性質が噛み合っていない可能性も見えてきた。 これは技術的な問題とは次元の違う話であり、扱いを一段慎重にする必要があると考えた。
- 直近の懸念対応(合意形成・報告)と同時に進めない。混ぜると「指摘を機に外された」という見え方になりやすい
- 「向いていない」ではなく「本人の強みをより活かせる場がある」というプラスの文脈で伝えられるかを重視する
- 決定権のない自分が直接本人に伝えるのではなく、権限を持つ人に判断してもらう
5. 提案は「選択肢」として渡す
関係者に何かを依頼するときは、「やってください」ではなく「一つの案として、採用するかどうかも含めてお任せします」という伝え方を意識した。
理由は、進め方や本人への伝え方について、自分より状況を把握している人がいる場合、その人の判断を尊重した方が結果的にうまく進むことが多いためである。 指示ではなく選択肢を渡すことで、相手も動きやすくなる。
まとめ
「大丈夫か?」という不安に対して、本人の頑張りをアピールするだけでは効果が薄い場面がある。 そのときに有効だったのは、次の3つの視点だった。
- 人への信頼ではなく、仕組みへの信頼に置き換える(合意形成、段階的な権限拡大、レビュー体制など)
- 懸念の背景にある構造(コミュニケーションの取り方など)を、本人を介さずに確認する
- 技術的な対応と、人選・役割の見直しは、時間軸を分けて別々に進める
組織の中で「この人は大丈夫か」という空気が生まれたとき、個人の弁明や努力だけで払拭しようとすると長期化しやすい。 仕組みとして「何かあっても組織は対応できる」という状態を作ることの方が、結果的に速く、かつ本人にとってもフェアな解決に近づくと感じている。